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東京高等裁判所 平成5年(ネ)4268号 判決

控訴人

株式会社アイチ

右代表者代表取締役

森下安道

右訴訟代理人弁護士

野島潤一

被控訴人

ダイヤモンドファクター株式会社

右代表者代表取締役

下房地勝

右訴訟代理人弁護士

服部昌明

萱場健一郎

村山永

池田和郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者双方の申立て

一控訴人

1  原判決を取り消す。

2  千葉地方裁判所松戸支部平成五年(リ)第六号配当手続事件につき、平成五年五月一三日に作成された配当表の「配当額」欄のうち、被控訴人への配当額四六九万二二二九円とあるのを二六六万七一二八円に、控訴人への配当額〇円とあるのを二〇二万五一〇一円にそれぞれ変更する。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

二被控訴人

主文と同旨。

第二事案の概要

一当事者間に争いがない事実

1  控訴人は、平成三年六月三日、訴外株式会社大清に対する横浜地方法務局所属公証人稲垣久一郎作成平成二年第三六六八号執行力ある公正証書の正本に基づき、株式会社大清が訴外大忠不動産株式会社ほか四名に対して有する原判決別紙物件目録記載の建物(以下、「本件建物」という。)の賃料債権の差押命令(千葉地方裁判所松戸支部平成三年(ル)第二〇〇号)を得た。

2  被控訴人は、平成四年一二月二五日、千葉地方法務局松戸支局平成元年一二月二七日受付第四九九三二号をもって設定登記された本件建物に対する根抵当権の物上代位により、前記賃料債権の差押命令(千葉地方裁判所松戸支部平成四年(ナ)第三六二号)を得た。

3  第三債務者である大忠不動産株式会社ほか四名は、平成五年一月分から同年五月分まで(ただし、大忠不動産株式会社は、同年二月分から同年五月分まで)の賃料合計四六八万五九四五円を供託した(以下、この供託金を「本件供託金」という。)。

4  平成五年五月一三日に千葉地方裁判所松戸支部において開かれた同支部平成五年(リ)第六号配当手続事件の配当期日において、被控訴人に対する配当額を四六九万二二二九円とし、控訴人に対する配当額を〇円とする配当表が作成された(なお、本件供託金に対する利息金六八四〇円が配当財源として付加されている。)。

5  控訴人は、右配当期日において、右配当表に対して異議を述べたが、異議は完結しなかった。

二争点

1  控訴人の主張

一般債権者が根抵当権の設定されている不動産の賃料を差し押さえたときは、右差押えは民法三〇四条一項但書の「払渡又は引渡」に当たるから、その後に根抵当権者が民法三七二条、三〇四条一項の規定による物上代位により、右賃料を差し押さえたとしても、右一般債権者に優先して配当を受けることはできない。したがって、本件供託金は控訴人の請求債権額一億七四五五万七三四三円と被控訴人の請求債権額二億二九八九万八〇八一円とに按分されるべきであるから、本件配当表は誤りである。

2  被控訴人の主張

対抗力ある根抵当権者は、一般債権者が根抵当権の目的不動産の賃料を差し押さえた場合であっても、その後に民法三七二条、三〇四条一項の規定による物上代位権の行使により右賃料債権を差し押さえたときは、物上代位による根抵当権の効力が右賃料債権に及んでいるから、本件供託金から優先配当を受けることができるものである。本件配当表に誤りはない。

三争点に対する判断

1  根抵当権の目的不動産が賃貸されている場合においては、根抵当権者は、民法三七二条、三〇四条の規定の趣旨に従い、目的不動産の賃借人に対する賃料債権に対しても抵当権を行使することができるものと解するのが相当である(最高裁判所平成元年一〇月二七日第二小法廷判決、民集四三巻九号一〇七〇頁参照)。

そして、民法三〇四条一項但書において、先取特権者(同法三七二条により抵当権者に準用される。)が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他のものの払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によって第三債務者が金銭その他の物を債務者に払い渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権(以下「目的債権」という。)の特定性が保持され、これにより、物上代位の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権について転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとするにあるから、目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者(抵当権者)が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではない(最高裁判所昭和五九年二月二日第一小法廷判決、民集三八巻三号四三一頁、同昭和六〇年七月一九日第二小法廷判決、民集三九巻五号一三二六頁各参照)。

2  控訴人は、差押も民法三〇四条一項但書の「払渡又は引渡」に当たるから、控訴人に遅れて本件債権の差押をした被控訴人は、右規定の適用ないし準用により、控訴人に対してその優先権を主張することはできないと主張する。しかし、抵当権者の目的不動産に対する物上代位権は、抵当権設定登記により公示され、第三者に対する対抗力を具備するものと解すべきであるから、その後に右賃料債権を差し押さえたにすぎない一般債権者は、その差押に後れて物上代位権を行使した抵当権者に対抗することができない。右規定が先取特権者(抵当権者)は目的債権の「払渡又は引渡」前に差押をしなければならないものとした趣旨は先に述べたとおりであって、単に目的債権の特定性を保持するにとどまらず、第三債務者に対し債務者への支払を禁止することにより第三債務者を二重弁済の危険から保護するとともに、既に「払渡又は引渡」を受けた第三者を保護しようとするものである。したがって、右規定にいう「払渡又は引渡」は、弁済又は弁済と同視できる処分のあった場合をいうものと解するのが相当である(なお、目的債権の譲渡や質権設定があった場合の物上代位権者に対する優劣の効力の問題は民法三〇四条一項但書の問題ではない。)。ところで、債権差押は、債務者に対して差し押さえられた債権について取立てその他の処分を禁止するとともに、第三債務者に対して右債権について債務者に対する弁済を禁止することにより右債権が債務者の財産から離脱することを防止して、債権者がその後に取立て又は転付を受けて満足を得ようとするものに過ぎない。したがって、債権差押は、弁済又は弁済と同視できる処分のあった場合に該当するものということはできないから、右規定にいう「払渡又は引渡」には当たらない。控訴人の右主張は、理由がない。

なお、前記最高裁判所昭和六〇年七月一九日第二小法廷判決(民集三九巻五号一三二六頁)の趣旨は、抵当権者が差押命令のほかに転付命令をも得なければならないとするものではなく、抵当権に基づく物上代位権の行使が、代位物に対する差押をもってすれば足りることを否定するものではない。

3  したがって、担保権者である被控訴人は、一般債権者にすぎない控訴人に優先して弁済を受ける権利を有するから、被控訴人に対する配当額を四六九万二二二九円とし、控訴人に対する配当額を〇円とした本件配当表に誤りはない。

四結論

以上によると、控訴人の本件配当異議は理由がないから、これを棄却すべきである。よって、当裁判所の右の判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鬼頭季郎 裁判官渡邉等 裁判官柴田寛之)

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